Dormeuil(ドーメル)
抜群の知名度を誇り、孤高の地位を築いたフランスの生地ブランドです。私も銀座にてスーツの仕事に携わる様になって最もお世話になった生地ブランドがドーメルです。自分自身もドーメルの生地は大好きで、毎年1着はドーメルの生地で仕立てたスーツまたはジャケットがワードローブにある程、ドーメルとは切っても切れない関係です。そんなドーメルのご紹介を張り切ってさせて頂きます。
ブランドヒストリー
ドーメルはフランスにて1842年ジュールズ・ドーメルによって創業されました。イギリスの優れた生地をフランスに輸入しようと発案したのがドーメルの生地ブランドとしての始まりです。その後代々ドーメル一族の経営によって事業を広げ、現在は5代目のドミニク・ドーメルが当主としてドーメルブランドを牽引します。このドーメル、知れば知るほど素晴らしくユニークで、その個性が世界中のファンを惹きつけて離しません。
フランスがユニーク
ドーメルの生地はほとんどが英国製で、ドーメルはイギリスの生地メーカーだと思われている方もいらっしゃいますが、創業の地はフランスで現在も本社はパリにあります。今日の主だった生地ブランドはイギリスとイタリアに集中し、それ以外の国で高い知名度を誇るのはフランスのドーメルと、ベルギーのスキャバルの2社くらいでは無いでしょうか。単に本拠地がフランスというだけで無く、そのコレクションにも独自性が貫かれています。色柄使いそして生地の仕上げは、一目でドーメルと分かる個性があります。この独自のドーメル・テイストが、同一化し易い現代にあってもしっかりと守られているのは素晴らしい事です。
特殊素材がユニーク
ドーメルと言えば、不定期に発表される希少素材を用いた限定ファブリックの事に触れない訳にはいきません。
・2007年「ROYAL QIVIUKロイヤルキヴィアック」
氷河時代の生き残りと言われる北極圏のジャコウウシ「マスコックス」の毛を使ったスーパーファブリック。マスコックスは、マンモスと同時代を生きた動物と言われ、わずか600頭ほどしか生息が確認されていない超希少動物です。北極圏の寒さから身を守るため2層構造の毛で体が覆われていますが、毎年春の終わり頃になるとその内側に隠れていた真っ白で細い毛が抜け落ちます。その毛を原住民は「キヴィアック」と呼んで拾い集め、古くから大切に扱ってきたと言います。ドーメルはそのキヴィアック・ウールを発見し、この古くて新しい素材キヴィアックにSuper200'sウールとカシミヤをミックスして、「ロイヤルキヴィアック」として発表したのでした。
・2008年「KIRGYZ WHITE キルギスホワイト」
珍獣キルギスヤギ。かのチンギス・ハーンがキルギスを征服した際に発見し、その居心地の良さから立派な宮殿を建てた後もこの動物の毛皮で出来た小屋に絹を敷き詰めて住んでいたと言う逸話が残っています。ビジュアル的には頭はヤギ、体は羊というヤギ科の動物で、過酷な自然環境のキルギスタンは天山山脈にのみ生息する希少動物です。その繊維は最高級カシミヤ と同じ細さ、パシュミナと同じ柔らかさ、シルクと同じ光沢と評されています。この白く美しいキルギス・ウールとSuper140'sウールをミックスして織られたのが、「キルギスホワイト」です。
・2011年「JADE ジェイド」
何と同じ産地のウールと宝石がミックスされたスペシャルファブリック。ニュージーランドの先住民が幸運のお守りとして古来から大切にしてきたニュージーランド産の翡翠を、同じくニュージーランド産のSuper160'sウールに練り込んだ神秘的な生地。幸運を呼ぶ生地と言う事から、英国王室の結婚式ではジェイドで仕立てたスーツが着用されるという事で有名です。
私も上記の生地が登場した際はお客様にご紹介し、お喜び頂くと共にその物語性から大変盛り上がった記憶があります。既成概念に囚われず、この様なワクワクするストーリー性のある生地を次々とプロデュースする発想力と技術力が、ドーメルが王侯貴族など世界中のVIPを顧客に持つ理由の一つです。
生地がユニーク
ドーメルは希少素材だけで無く、ウール素材を絶妙にアレンジしてそれまで誰も織った事が無い生地を作り出して、世界中の生地メーカーに影響を与えてきました。1927年発表の「Sportex スポテックス」はゴルフの時に着用するジャケット用に開発されましたが、その耐久性と動きやすさから当時世界最高の生地としてドーメルの名を世界に轟かせました。そして、今でこそ当たり前になりましたが、「セルベッジ」と言って生地の耳にブランド名やコレクション名を世界で初めて入れたのも、この頃のドーメルでした。1957年に発表された「Tonik トニック」もドーメルを代表する生地ですね。それまで不可能とされていたキッドモヘアを多くウールに混紡した生地の生産に成功し、紳士服地の革命と称賛されます。試行錯誤の末にこの生地が完成した際、ジントニックで乾杯した事から「トニック」と命名されたのは有名な話です。そして1991年にはロングセラー「Amadeus アマデウス」がリリースされます。
ドーメルらしい美しいカラーリング、引き揃えられたウールと丹念に施された仕上げによるラグジュアリーな光沢、一方で確りとした打ち込みによる高反発力でシワになり難く耐久性が高いと、弱点が見つからない生地。私も単一コレクションとしては最もお客様にお勧めしご注文頂いてきたシリーズだと思います。そして近年の大ヒットは2016年発表の「Exel エクセル」。ウール100%でありながら、ポリウレタン混並に伸縮する超ナチュラルストレッチ生地は、シワにも強くトラベルスーツやパンツ単品にも最適です(ちょうどそのエクセルで仕立てたパンツを履きながら、この原稿を書いております)。これからもどんな革新的な生地をドーメルが生み出すのか、目が離せません。
ラグジュアリーにしてキャラクターがしっかりと立ったドーメルの生地、ユニークなだけにはまると他の生地ブランドをオーダーできなくなるかも知れません。実際弊店では一度ドーメルの生地でオーダーされた方がご指名でリピートされるケースが多いです。イタリアでもイギリスでも無いドーメル独自のテイストと、世界中のVIPを虜にするストーリーに裏打ちされた素晴らしい生地のクオリティをぜひ体感下さいませ。