Repair and Reform ジャケットのエルボーパッチ&パンツの股ずれ補修

お気に入りの服ほど長く、そして沢山着たいもの。しかし一方で着れば着るほど服は消耗し、寿命が縮まるというジレンマがあります。特に生地に直接ダメージが及ぶ「摩擦」は大敵ですが、どんな服でも避ける事はできません。長く愛用されている内にジャケットの肘や脇、パンツの内股やお尻など摩擦が発生し易い箇所は徐々に生地が薄くなり、穴が開いてしまう事もあります。今回はそんな摩擦による穴あき修理の実例をご紹介します。

肘の穴あきを「エルボーパッチ」で補修

前々職の会社にてお仕立てさせて頂き、かれこれ10年以上ご愛用頂いているネイビーブレザー。これまでもボタン交換や裏地のお修理等、定期的に補修をご用命頂いておりましたが、今回はとうとう肘に穴が開いてしまいました。

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肘の部分。摩擦で糸が切れて、完全に穴が開いています。

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穴が開いている箇所を裏から見たところ。裏地も破れています。

穴が小さい様であれば縫い込む手もありますが、今回は穴が大きく、穴が隠れる程縫い込むと袖が細くなり過ぎてしまいます。また、穴あき修理の定番「ミシンたたき」(裏から当て布をしてその部分をミシンで縫って補強する修理)ですと、直した跡が少々目立つ上に、直した箇所が固くなるので、せっかく直したのに直した箇所の周りがすぐ破れてきてイタチごっこ状態になる可能性があります。

そこで今回は「エルボーパッチ」のご提案。カジュアルなジャケットやニットですと補強兼デザインとして最初から肘当てが付いているものもありますが、後から付ける事もできるのです。

エルボーパッチには①「似た生地(同じ生地がある場合は同じ生地)で全体に馴染むエルボーパッチ」か、②「フェイクスエード等でワンポイントとなるエルボーパッチ」の2種類があります。②はどちらかと言うとカジュアルな仕上がりになります。今回のお客様はフォーマルなイメージに仕上げられたいとの事でしたので、なるべく目立たない似た生地にてエルボーパッチを当てる事になりました。

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現行のジャケット生地で色と織り方が近いものを取り寄せて当て布に使いました。良く見ると色合いは若干異なりますが、しっとり柔らかい質感が似ているので、良い感じに馴染んでいます。デザインとしても素敵では無いでしょうか。

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裏地の破れた部分にも、新しい裏地を当てて直しました。

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ここまで愛用されて、このネイビーブレザーも本望だと思います。穴あきを直す為の必要なお修理ではありましたが、エルボーパッチでさらにこのブレザーの雰囲気が増した様に思います。

参考お修理価格 7,000円(エルボーパッチの生地代含む)

股ずれを接着芯で補修

続いては、「股ずれ」の修理。弊店のパンツはもちろんの事、本格的な仕立てのパンツには股ずれを防止する為に裏地や股シック(股の部分に縫い目を隠す様に縫い付けられた当て布)が付きますが、着用される方の体型や歩き方、そしてパンツの素材によっては発生し易いダメージです。

股の部分の生地同士が歩く動作で擦り合わせられる事で段々と摩耗していくのですが、履いていても目に入らない箇所ですし、脱いだ際もあまり注意して見ない箇所なので、ある日気がつくと穴が開いていたなんて事もざらです(皆様もぜひこの機会にパンツの内股部分をチェックして下さい。特に起毛素材は要注意です。)。

今回のお修理のお客様も、そもそもはサイズ調整の為にお手持ちのスーツをお持ち込み頂いたのがきっかけで発覚しました。全体のコンディションをチェックさせて頂いていたところ、「股ずれ」が見つかったのです。

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幸いにも穴が開く前の段階、生地の表面が削れて薄くなっている状態でした。起毛素材では無いのですが、摩擦により生地の繊維が切れて起毛素材の様に毛羽立っています。

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股ずれ箇所を内側から見たところ。内側も同じ様に毛羽立っています。左上の黒っぽいパーツが股シックです。

股ずれ修理は、穴が開いてしまっている場合は裏から当て布をしてミシンでたたいてしまうのが一般的ですが、ジャケットのところで書きました様にミシンたたきは直した箇所が固くなる分、直した箇所の周辺生地がダメージを受けやすくなる傾向があります。今回はまだ穴が開いていなかったので、弱った生地を補強しつつ修理箇所を固くしない様なお修理となりました。

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生地が薄くなっている部分に補強の接着芯を貼り、その芯が剥がれてこない様に周りを縫いました。薄くなった生地を助けつつ、柔軟性は失われないので周りの生地に対するダメージも避けられます。

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表側は余計な毛羽をカットして整えてあげました。

股ずれを早めに発見できた事で柔軟性を保ちながら自然に仕上がる事ができました。ミシンたたきよりコストもかかりません。これでまだまだ履いて頂けるでしょう。

参考お修理価格 2,000円

リペア特集、いかがでしたでしょうか。スーツの破れた箇所に継ぎ当てをしてでも愛用しているウェルドレッサーと言えば、英国王室のチャールズ皇太子が挙げられるでしょう。「チャールズ・パッチ」という言葉まで生まれた程です。本来はラグジュアリーなスーツやジャケット、パンツを、継ぎ当てしてでも着る姿勢。これを「みすぼらしい」と取るか、「モノを大切にして格好良い」と取るか、意見は別れるところですが、私は例え高価な服で無くとも、お気に入りの服を直しながら長く着るのはとても素敵な事だと思います。

そんな訳で弊店では例え難しいお修理でも出来る限りの方法を、お見積もりとあわせてご提案させて頂きます。「盛大に破れちゃって恥ずかしい」などと思わずどしどしご相談下さい。今回ご紹介させて頂いたお召し物もそうですが、弊店でのご注文品で無くても喜んで承っております。どんなダメージも直す方法があります。そう思うと着れば着る程痛むというジレンマから解放されて、お気に入りの服を気兼ね無くヘビーユースできるのでは無いでしょうか。

ご相談はContactフォームから、ご来店でのご相談をご希望の場合はReservationフォームからご予約ください。どうぞ宜しくお願い致します。

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Posted by Tomohiro Hayashi
林 倫広

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