ビスポークシャツ「チョアジャケット」レビュー

店主
林 倫広
シャツの仕立て職人、池田亮さんにお願いしたオリジナルのチョアジャケットが完成いたしました。ビスポークの楽しさを改めて感じることができた仕上がりを私なりに表現いたしましたので、ぜひご覧ください。
前編ではチョアジャケットの仮縫いの模様をご紹介させていただきました。
今回はその仕上がりをご紹介させていただきます。
完成
アイロンのかかった綺麗な状態よりも、着てシワが入った状態の方がチョアジャケットの魅力が伝わると思い、何回か着てかなり馴染んだ状態で撮影しております。良い雰囲気に育ってきています。
チョアジャケットというとフロントのボタンは打ち抜きが一般的ですが、ボタンが隠れる比翼仕立てに。実存する比翼仕立てのチョアジャケットのデザインを参考にして池田さんにご相談しました。このミニマルにしてユニークなビジュアル、私好みの仕上がりです。
襟はいわゆるステンカラー。第一釦まで比翼仕立てになっているのは、比較的珍しい構造。池田さん曰く、仕立てるのに手間がかかる職人泣かせの作りだそうです。
胸ポケットは左のみの、3パッチポケットのデザイン。テーラードジャケットと比較して、胸ポケットも腰ポケットも低めに配置されているのが特徴的。ワークっぽい、良い意味で洗練され過ぎないバランス。
美しい襟の雰囲気はシャツ職人ならでは。ステッチの幅は指定しなかったのですが、ドレスシャツと同じ端から3mmのステッチに、池田さんのこだわりを感じます。
胸ポケット。チョアジャケットらしい角落としのデザイン。繊細なシングルステッチで仕上げられています。内ポケットを囲むように、内ポケットのステッチが表に出ているのが、このチョアジャケットの特徴。もっとステッチが目立つイメージをしていましたが、シャツ用の細い白糸で入ったステッチは思いの外控えめ。こういう想定外の着地も、ビスポークならでは。
左腰ポケット。テーラードジャケットの腰ポケットは使わないのが良いとされていますが、これはチョアジャケットなのでちゃんと使ってあげた方が良いと思い、事あるごとに使っています。開梱作業をする時にカッターを入れることが多いです。
右腰ポケット。歩く時に手を入れることが多いです。
袖口はカフスではなく、筒袖にボタンとボタンホール。ビスポークのジャケットであえてのこの簡易な仕様という塩梅が、なかなか気に入っています。
背中はヨークのみ。タックやギャザー、切り替えなどもない潔さですが、なんとも言えない味があります。
大きな左内ポケット。このポケットは内側にあって深めなのでパスケースなど貴重品を入れるのに重宝しています。
奥ゆかしいRYO IKEDAのブランドネームに、お馴染みDRAPERSのブランドネーム。さりげない配置にも池田さんの美的感覚が感じられます。
コーディネート
カットソー×スニーカー
まずは素直に、モノトーンでカジュアルにコーディネートしてみました。
黒のボーダーモックネックに、ブラックデニムのスラックス、足元には白濱さんのチャッカブーツのダークグレーを合わせました。
色々試した結果、上から3個目のボタンをかけて着るバランスがしっくりきました。袖口も何となく一折りしたら良い感じ。
アウトポケットに手を入れるのが好きです。
背中もたっぷりのゆとり。太い一枚袖も雰囲気があります。
ポケットが大切なアクセント。
柔らかいシャツ仕立てなので、リネンのシワ感を存分に楽しめます。
ビスポークだからこその綺麗な落ち間の背中。
ボタンを開けるとこんな感じ。
左の内ポケットは二つ。この下のポケットにパスケースを入れます。
右にも内ポケット。こちらはキーケースの定位置。
シャツ×タイ×ドレスシューズ
続いてはややドレッシーな着こなし。実はこちらの着こなしが当初のイメージでした。
全体をブラウングラデーションにしました。池田さんの生成りのドレスシャツにブラウンのタイ、モカ茶のコットンパンツに白濱さんのブラウンパティーヌUチップ。
フレンチワークっぽいイメージでオーダーした後にリフォームしたくるぶし丈のコットンパンツ。着こなしに苦戦していましたが、チョアジャケットという相棒を得て、生き生きとしています。長めのゆったりトップスに、太めのくるぶし丈ボトムス、また一つ着こなしの勉強をしました。
タイドアップしてドレスシューズも履いているけれど、リラックスして見えるところが好きです。
シワシワのジャケットは本来NGですが、麻なら許されるでしょう。
シャツタイとのVゾーンのバランスもバッチリです。
感想
仕上がってきて最初に袖を通した時の正直な感想は、「格好良い!そして素晴らしい完成度。でも思ったより綺麗目で着こなしが難しそう」というものでした。
ドラッパーズ社の上品なリネン生地を選んだことに加えて、池田さんの繊細なステッチワーク。糸もシャツの仕立てに用いる細い糸ですので、フレンチワークジャケットやカバーオールなどの一般的なチョアジャケットよりもずっと上品に仕上がるのは当然ですが、最初はイメージとのギャップに戸惑いました。
ただ、面白いことに何度か袖を通しているうちに、このチョアジャケットとのチューニングが合っていくのです。服と着る側が歩み寄っていく感じといいますか、着れば着るほどしっくり来る感覚が強くなりました。もちろん、麻素材ならではのシワが入ることによる馴染みも大きいでしょう。徐々に、手持ちのワードローブとの相性も掴めるようになりました。
今まで着た事のあるアイテムをオーダーするとこのようなことはないのでしょうが、あえてチャレンジしたからこそ味わえた感覚で、これもまたビスポークの一つの魅力と言えるかも知れません。
せっかくオリジナルでお願いして実現したチョアジャケット、1着だけに終わらず深掘りしていきたいと思います。秋冬に向けてモールスキンでお願いするか、リネンのバリエーションを増やすか、楽しい悩みは尽きません。「同じようなチョアジャケットをオーダーしたい」「既製では手に入らない理想のシャツジャケットをオーダーしたい」という方はぜひドレッシングラボにご相談ください。池田さんと3人で楽しくご相談できたら幸いです。