シャトーブリアンで仕立てた、至高のフルブローグ

hayashi
店主
林 倫広

K様に2足目にオーダーいただいたのは、ブラックカーフのフルブローグ。控えめでありながら華やかで、陰影が美しい至高の1足をぜひご覧ください。

ご注文の経緯

K様のビスポークシューズのオーダーは、ブラウンパティーヌのパンチドキャップトゥに続いて、こちらが2足目。レザーソールでお仕立てした1足目は、お仕事でヘビーユースいただき、トゥスチールとハーフラバーを貼るくらいに履き込んで、2足目のご注文です。

2足目のご注文にあたり、オーダーしたい靴のデザインの候補を紙に書き出してきてくださったK様。「黒のカーフのフルブローグ」は既製品でもよくあるデザインと素材のため、候補の中でも優先順位の低いデザインでしたが、「まずはベーシックな靴を揃えた方が良い。とても格好良いですよ」という白濵氏のお勧めもあり、オーダーくださることになりました。

革はデュプイ社の「シャトーブリアン」。キメが細かくしなやかなカーフで、白濱氏も同じ革で自身が履く靴を作ったほどの一押しの革。私も同じ革でローファーをオーダーさせていただきましたが、しなやかで足馴染みがよく、とにかく履きやすいことに加え、革本来の艶が素晴らしく、ドレスシューズ はもちろんのこと、あえてローファーやUチップなどカジュアルなデザインの靴に採用しても、ドレッシーな雰囲気にしてくれる革です。

フルブローグとは、ウィングチップにメダリオンが施されると共に、パーフォレーションと呼ばれる穴飾りが各パーツを彩る、華やかなディテールの靴です。もともとアウトドア系の靴に採用されたデザインなので、フォーマルなシーンには相応しくないとはされていますが、ブラックのカーフで内羽根のフルブローグなら、1年を通してダークスーツをお召しのK様のコーディネートにもばっちり合います。

既に木型のあるK様は、通常1回目の仮縫いに用いる透明樹脂の仮縫いではなく、革の仮縫いからのスタート。2回の革の仮縫いで、フィッティングの微調整とディテールの確認を行いました。

1回目の仮縫い

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右足のみ、本縫いさながらにパーフォレーション(切替部分の穴飾り)とピンキング(縁のギザギザの飾り)が施されています。革の仮縫いでは、フィッティングの確認だけでなく、穴の大きさなどデザインの確認も合わせて行います。

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手で触り、お客様の感じるフィット感を伺いながら合わせていきます。

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柔らかいシャトーブリアンの特性を考慮しながらフィッティングを詰めて、2回目の仮縫いへと向かいます。

2回目の仮縫い

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1回目の仮縫いでも十分に本縫いに進めるレベルでしたが、念入りに2回目の革の仮縫い。

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さすが2回目の仮縫い。このままでも履いていただけそうなフィット感です。万全の確認を経て、いざ本縫いへ。

完成

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この上ないフルブローグシューズが完成しました。革本来の光沢が素晴らしいので、ポリッシュはトゥとヒールにだけさりげなく。

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黒のフルブローグならではの陰影。ビスポークならではの造形。

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小径のパーフォレーション。既製品ではお目にかかれない、非常に細かいピンキング。どこまでもエレガントを追求しています。

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ウィングチップとヴァンプとヒール、3パーツのラインが集まるサイド。曲線の角度を合わせることもあるそうですが、今回はそれぞれの曲線を微妙に変えることで、動きを出しています。白濵氏の美的感覚。

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ウィングチップの中心は少しインサイドに寄せてあります。左右のウィングがサイドに落ちず綺麗に収まるバランスを取った結果。

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立ち姿が美しく見える、高めのヒールはビスポークの特徴。トップライン(履き口)にも繊細なピンキング。フルブローグとは、なんと手のかかっている靴なのでしょう。

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パーフォレーションの描く複雑な曲線。アイレットからヴァンプと繋がる、甲のメリハリの効いた立体感。ずっと眺めていたい景色です。

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内踏まずのくびれ。

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親指の付け根に相当するインサイドの、キレのある立ち上がり。ぎりぎりを攻めた低い甲だからこそ。

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アラベスクというモチーフのメダリオン。職人が靴に描く絵。

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パーフォーレーションとピンキングとステッチ。パーフォーレーションは大きな丸と小さな2個の丸が順番に並んでいて、親子穴とも呼ばれます。細かい仕事に、畏敬の念が湧いてきます。

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アイレット部分もじっくり見てみます。タンにもパーフォレーションとピンキング。力のかかる羽根の根元には閂。

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ソールからアッパーの、外に膨らまない立ち上がりは、ハンドソーンウェルテッドならではの景色。流れるような低いラインのウィングチップが美しい。

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美しい見た目だけでなく、丈夫で返りが良く、沈み込みもほぼ無いためフィット感が変わらないという、良いことずくめのハンドソーンウェルテッド。

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お仕事でしっかりと履いてくださるK様。トゥにはビンテージスチールを。いつもながら履くのが惜しくなるような、美しい仕上げのソール。手で施された滑り止めの溝。

ご着用

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履いていただきました。「履いた瞬間に柔らかい!」とK様。

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「フルブローグは好き嫌いがはっきりしている。ある意味賭けだったが、その心配や期待をも超える仕上がりです。」とのこと。

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「靴単体で見ると大きく派手に見えたが、履いてみると黒の安心感があり、どこにでも履いていける。柔らかいので歩きやすそうだし。」

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黒光りするトゥと、シルバーに光るヴァンプのコントラストが美しい。

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低重心の流麗なフォルム。艶やかなカーフ。ただただ美しい。

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仕上がりに大満足いただき、この日に3足目のビスポークシューズをオーダーくださったK様でした。

黒のカーフのフルブローグ。ドレスシューズとしては最もスタンダードな色とありふれたデザイン。だからこそ、ビスポークのクオリティが際立つ仕上がりとなりました。

私自身、白濵氏との取り組みを始めた当初は、既成靴に無いような特別なデザインの靴をオーダーしようと前のめりになっていたことがありました。しかし、ビスポークシューズ の素晴らしさが分かり始めた今となっては、ベーシックなデザインの靴こそ、ビスポークで仕立てる甲斐があるのかも知れないと考えています。

ビスポークならではの快適な履き心地と、背筋が伸びるフィット感。細部に到るまで行き届いた美意識。それでありながら奇抜さは全くなく、あくまで控えめで普段のビジネスシーンに、お手持ちのスーツやジャケットパンツにすんなりと馴染む靴。クラシックを理解し、履く方や着る服を引き立てる意識を持っている白濵氏だからこそ。

既成靴と比べると納期、お値段共にするので「靴のビスポーク、興味はあるけどハードルが高いかな?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、まずは一足、お試しください。私やK様もそうですが、一足オーダーして履いていただければ、価値観が変わり、ビスポークシューズが決して高いお買い物でないとご理解いただけるはずです。

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Posted by Tomohiro Hayashi
林 倫広

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