ビスポークシューズ「フルブローグ(ウィングチップ)」

hayashi
店主
林 倫広

S様にご注文頂いた、ビスポークシューズが完成致しました。白濵氏の十八番であるパティーヌを施した、唯一無二のフルブローグです。ぜひご覧くださいませ。

ご注文の経緯

足に合う靴が無く、シューズオーダーを検討されていたS様。たまたまインターネット検索にて、弊店でのYUKI SHIRAHAMA BOTTIERビスポークシューズ 受注会開催を知り、ご予約を下さいました。

普段はカジュアルなお召し物で、足下ももっぱらスニーカーのS様。お食事などたまのお出かけの際に履ける、ドレッシー過ぎない靴をご希望でした。デザインや素材感などは、ベーシックなものより存在感のあるものを好まれるS様、ベースのデザインは革靴の中では最も装飾性が高いと言われるウィングチップ(フルブローグ)、革は白濵氏が仏アノネイ社に特注した揉み革(グレインレザー)に、さらにパティーヌを施す事に。

フルブローグ(ウィングチップ)とは

まずフルブローグの「ブローグ」のご説明から。ブローグ(brogue)とは、穴飾りのある短靴の事を指します。

そもそも、この穴飾りは装飾では無く、湿地や雨天での歩行時に、靴の通気性を高めたり水はけを良くするために施された工夫です。つま先にキャップを被せているのも、革を二重に重ねる事で、水が染み込むのを防ぐのが本来の目的でした。16世紀頃にスコットランド地方でケルト人が履いていたこの機能的かつ魅力的なビジュアルのアウトドアシューズにイギリス人が着目し、そのデザインを狩猟などのカントリーシューズに取り入れて、普及していったと言われています。そんなルーツゆえに、ブローグシューズは穴飾りが増えれば増えるほどスポーティーになり、フォーマルよりもカジュアルに適したデザインとみなされます。

穴飾りのある短靴(ブローグ)は、穴飾りの入り方や、キャップのデザインによって、「クォーターブローグ」「セミブローグ」「フルブローグ」の3種類に分類されます。私が白濵氏に仕立ててもらった靴は、この分類では「クォーターブローグ」にあたります。パンチドキャップトゥ(キャップの縫い目に沿って穴飾りが入るデザイン)でありつつ、キャップ中央に穴飾り(メダリオン)が無い、ブローグシューズでは最もおとなしく、比較的ドレッシーなデザインです。

それに対してのフルブローグは、まさにフルにブローギングが施されたデザインの事。さらにフルブローグ=ウィングチップと言われる様に、W型の羽の様なキャップのデザイン「ウィングチップ」が、フルブローグのお約束です。「クォーターブローグ」以外の2型「セミブローグ」と「フルブローグ」は、キャップにメダリオンと言われる穴飾りが施されるのも特徴で、当然クォーターブローグの様にキャップにメダリオンが無いものより、メダリオンが施されたデザインの方がカジュアルです。

S様はカジュアルユースかつ主張のあるビジュアルをお求めでしたので、このフルブローグがまさにぴったりのセレクトでした。

完成品

いよいよ完成したフルブローグシューズをご紹介して参ります。

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エレガンスと力強さ、両方を感じる仕上がり。左足のちょうど小指の辺りから羽根までS字に繋がるアンティーク仕上げからは、意気揚々と仕上げを行う白濵氏の手の動きが目に浮かぶ様です。

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フルブローグの陰影を、パティーヌがさらに印象的なものにしています。シボ革のパティーヌがこんなに素敵なものとは、知りませんでした。

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白濵氏の審美眼によって作られた、絶妙なバランスのウィングチップ。

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ウィングチップに施された繊細なメダリオンは白濵氏がその時々でアレンジしていて、同じものはありません。

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あえての内羽根。ステッチとパーフォレーションの競演をずっと眺めていたいです。

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どこから見ても美しい。

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履くのがためらわれる程、繊細な仕上げを施されたソール。滑り止めのために一本一本ガラスの破片で施された彫りが、美しすぎます。

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好ましい釘の配置。隅から隅まで行き渡る、美しさへのこだわり。

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トゥの補強のための化粧釘。こんな美しい底を履いて削ってしまうのは、とても背徳感がありますが、でもそれで良いのです。

納品

お天気にも恵まれた絶好のご納品日和。ご挨拶もそこそこに、早速足を入れて頂きました。

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「良い意味で裏切られました!」との第一声。それもそのはず。仮縫いの際のパティーヌはもう一段明るく、仕上げもクリーンでした。白濵氏が本番のパティーヌを施す中で、「S様の普段のお洋服を考えると、もう一段濃く味付けした方が合うはず」と、あえて色を濃く、アンティーク仕上げも強めにしたのでした。結果、非常に馴染む仕上がりで、S様も大いに気に入って頂きました。

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スムースレザーと比べて、グレインレザーのパティーヌはどの程度パティーヌ感が出るのか未知数でしたが、陽の光が当たるとこの通り。透明感のある濃淡は、まさにパティーヌ特有のものです。

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トゥやパーフォレーション(縁取りに施された穴飾り)を濃く色付けする事で、立体感が生まれています。あえて焦げ茶の塗料を馴染ませずに、塗ったままで仕上げる事で、迫力のある風合いに。

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ウィングチップのバランスやトゥの形状、靴の長さなど、全てが良い塩梅に収まっています。デザインといい、革といい、主張が盛り盛りの靴なのに、このさりげないまとまりが凄い。

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仮縫いで慎重に調整した羽根の閉じ具合も、当然ばっちり。

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ご納品ではお約束の儀式。良い履きジワを最初に入れてしまいます。まずは右から。白濵氏がここだというポイントを押さえた状態で、かかとを浮かせて頂き、シワを入れていきます。

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これで変な履きジワが入る事がありません。

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左足も同じく。

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履きジワが入った事で、さらに良い表情になりました。

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履きジワを入れただけでも表情が変わった事からお分かり頂けると思いますが、パティーヌの靴は、特に味が出やすいです。これから履いて磨いてを繰り返して頂く中で、どんな風合いに育っていくのか、非常に楽しみです。表情豊かな相棒を、ずっと可愛がって頂けましたら幸いです。

仕上がりを大変お気に召して頂いたS様。ご納品とあわせて次の一足をご用命頂きました。次は特別な革で、ダブルモンクのブーツを。こちらも仕上がりをどうぞお楽しみになさって下さいませ。

Photo Gallery

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Posted by Tomohiro Hayashi
林 倫広

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