Bespoke Line 1st Ftitting 勉強会
この度、仕立て職人の小島氏にお願いして、ビスポークの採寸勉強会をしてもらいました。肝心のビスポークの採寸はもちろんのこと、MTMの採寸にすぐに活かせる学びや、ビスポークへのさらなる理解など、実りの多い濃い時間となりました。そして、ますますビスポークを好きになりました!ぜひご覧下さいませ。
先日、弊店ビスポーク・ラインの仕立て職人である小島氏に来店頂き、今季のビスポーク・ライン受注会の打ち合わせとあわせて、ビスポーク・ラインの1st フィッティングのレクチャーを受けましたので、その模様をご報告させて頂きます。
MTMとビスポーク・ラインの採寸方法の違い
MTM(メイド・トゥ・メジャー)とビスポーク・ラインですと、1着のスーツを仕立てるにしても、採寸方法含めプロセスに大きな違いがあります。
MTMの採寸の場合、基本寸法をメジャーで採寸した後にゲージサンプルを仮縫いと見立ててご試着頂いて採寸し、約1ヶ月〜1ヶ月半後に完成となります。完成時に最終フィッティグという形でご試着頂き、調整点があれば調整の上お納めします。
対して、ビスポーク・ラインは最初に基本寸法をMTMより細かく測り(1st フィッティング)、それをベースに型紙を一から引いて仮縫いを作成、仮縫いのご試着、仮縫いの結果をもとに修正した型紙で仕立てた中本縫いをご試着、最後に中本縫いの結果をもとに修正した型紙で本縫いに進行し、完成となります。
レクチャーの目的
弊店ではこれまで数ヶ月毎に開催するビスポーク・ライン受注会の際にお客様にお越し頂いて、1stフィッティングから職人の小島氏にお願いしていましたが、タイミングによっては、せっかくビスポーク・ラインのご注文のご要望を頂いたのに、受注会が終わったばかりで1stフィッティングがかなり先になる=納期が伸びてしまうことや、お忙しくてなかなか受注会にご来店のタイミングが合わないというお客様もいらっしゃり、できるだけお客様にお越し頂く手間を減らしたいとの思いから、ビスポーク・ラインの1stフィッティングを私がマスターして、ビスポーク・ラインをいつでもお受けできる様にしようということになりました。
また、これまでMTMで慣れ親しんだゲージサンプルを用いた採寸に加えて、ビスポークのヌード寸(洋服の寸法では無く、お客様の体を測った寸法)から服の出来上がり寸法を割り出す方法を理解することで、MTMの採寸精度をさらに引き上げられるというメリットもあります。
レクチャーの内容
まずは座学から。ビスポーク・ラインの採寸箇所が記された専用の用紙をもとに、小島氏にノートに簡単な型紙を引いてもらい、採寸箇所の用語がどこの部分を指しているかを確認していきました。
どこをどう測るのか、細かく確認します。
測って仕立てて検証してを繰り返してきた小島氏の説明は、説得力があり、また非常に分かりやすいです。採寸箇所も洗練されており、不要な採寸箇所は外して型紙作成に本当に必要な箇所にだけ絞り込まれています。
どこをどう測るのかだけでは無く、その採寸が型紙にどう活かされるのかまで学びます。型紙の理解が深まり、とても面白いです。
さて、座学で1stフィッティングの基本を確認した後は、いよいよ採寸の実技です。これまでもビスポーク・ラインの受注の際は、小島氏がお客様の採寸をして私がその寸法を横で記録する役割だったので、おおよそどの箇所をどの様に測るかは分かりますが、やはりいざ正確に測るとなると手加減も含めて知りたいことばかりです。
まずは小島氏が私のヌード寸を測っていきます。私は説明を聞きながら、どこをどの様に測っているか、見て聞いて覚えていきます。(本来はシャツの上から測りますが、測る箇所の説明ということで、ジャケットを着たまま測って頂きました。)
弊店のビスポーク・ラインは短寸式と言って、約20箇所と細かくヌード寸を測って、その寸法から製図をしていく手法をとっています。これでも小島氏の方で厳選した必要最小限の採寸箇所となっています。
お客様からは「そんなに細かく測るの?」と驚かれたことがありますが、バスト寸法を元に製図する胸度式と比べると、短寸式は細かく採寸する分、お客様の体型により合った製図ができます。
小島氏に確認をして、採寸用紙に要点を書き込んでいきます。フィッティングとは関係ありませんが、たまたま2人ともこの日はドラッパーズ「コットン・デラックス」のコットンソラーロを色違いで着用。決して打ち合わせた訳ではないのですが、奇遇で笑ってしまいました。
続いて小島氏にお客様の役になってもらい、私が小島氏のヌード寸を測っていきます。
まずはバスト周の寸法とバスト線の位置の確認。ここがジャケット採寸の基準となります。横から見て水平であることが大切です。
MTMだと垂直や水平に測る箇所が多いのですが、ビスポークだとそれに加えて襷掛けの様に斜めに計る箇所が多いです。肩甲骨や胸筋など上半身には大きな凹凸がありますが、斜めに測ることで、必要な距離やその凹凸の立体を割り出すことさえできます。
前述した通り、ジャケットの採寸にはバスト線が基準として大活躍します。前中心のバスト線の高さを記憶しておくのに、シャツのボタン位置を目安にする方法を教えてもらいました。
目視で肩の傾斜を確認すると共に、肩甲骨の盛り上がりに手をあてて、前肩の具合を確認します。メジャーを使っての計測も大切ですが、それと同じくらいお客様の体型観察も大切です。
この辺りはMTMも全く同じですが、お客様のお体を観察して、肩の傾斜(撫で肩・怒り肩・左右の高さの違い)や、姿勢は前屈みか反っているのか、骨盤の向き、立ち方など、いわゆるお客様の体の癖を把握して、補正として型紙に反映していきます。体型観察の際は手でお体を触って確認すると共に、少し離れてお体全体のバランスと姿勢を目で確認します。
採寸からは脱線しますが、その日お客様がお召しのスーツやジャケットをよく拝見すると共に、気に入っているところ、逆に不満なところを伺って、お客様のお好みやご希望と、フィッターの仕上がりイメージを擦り合わせるのも、MTM・ビスポーク両方に必須のプロセスと考えています。
あくまでお召しになるのはお客様なので、フィッターのご提案やお店のスタイルを押し付けるのでは無く、お客様の服の「お好み」や「着心地の慣れ」というものを上手に仕立てに反映して、長く気持ち良く着て頂ける服に仕上げることが大切だと思います。
パンツの総丈を測っているところ。パンツの採寸も大切ですが、ジャケットと比べると採寸箇所はずっと少ないです。むしろ骨盤の向き、そしてウェストのどの位置でパンツを履かれたいかといった体型とお好みの把握が大切になってきます。
メジャーの実技を2回させてもらった後、改めて私の用意した型紙にどの部分を測るか書き込んでもらい確認。今日の要点をまとめたメモとこの型紙は永久保存版として大切に使います。
さて、レクチャーが一段落したところでお決まりの生地談義に。次の1着はどうしようということで、小島氏の今季のお勧め、そして私がイメージしている生地など、わいわい盛り上がってしまいました。
小島氏イチオシのドラッパーズ「スリーキングス」。ライトウェイトのカバートクロスもユニークで捨てがたいですが、とりわけ絶妙な色合いと光沢のギャバジンが最高です。
ついついベージュやカーキなどのアースカラーに吸い寄せられてしまいます。。。
Super160'sウールのネイビースーツ、この日着ているコットンソラーロスーツと来て、次はリネンのスーツとカシミヤのチェスターコートが念頭にあります。オーダーを重ねる事に進化するビスポーク、次作が完成次第お披露目させて頂きますので、お楽しみになさって下さい。
レクチャーを終えて
無事レクチャーを終えることができました。レクチャー後に小島氏と話していて衝撃を受けたのは、「正確に測って型紙を作り、その通りに仕立てるのだけが絶対ではない」という、ある意味このレクチャーを覆しそうな発言。
ナポリのサルト(テーラー)では、あえて型紙を作らずに毎回生地に直接線を書き込んで裁断するところがあります。当然何着リピートしても、毎回仕上がりが違ってきます。私からすると「同じ寸法で良いって言ったのに、毎回違うじゃん!」というお客様が突っ込む姿が目に浮かんできますが、それをナポリのサルトは「だからこそ毎回の仕立てと仕上がりがドラマチックなんだ」と表現しているそうです。
ちなみに小島氏も、自身のスーツやジャケットを何着も仕立てていますが、それがどんなに良い仕上がりだったとしても、同じ型紙は使わずに毎回変えて仕立てるとのことでした。
MTMにおいては、生地を選んで頂くだけで正確に同じ寸法で仕立てられるということが一つの重要な価値と捉えています。しかし、融通の効くビスポークだからこそ、仮にリピートオーダーだとしても毎回少しずつ変えて、毎回ドラマチックにチャレンジしていこう、という結論に至りました。もちろんお客様にもご了承を頂いた上での話ですが。こんな話をして、また一歩ビスポークが好きになりました。
1回レクチャーを受けたからといって完璧にマスターというほどもちろん甘くありませんが、MTMの採寸経験というバックボーンもあり小島氏にもOKをもらえたので、これからは張り切ってビスポーク・ラインの1stフィッティングを担当させて頂きます。
またMTMについても、今回の短寸式の採寸レクチャーを活かして採寸箇所を増やし、さらにご満足頂ける仕上がりを目指して参ります。15年以上オーダーメイドの仕事をやらせて頂いておりますが、まだまだ勉強できること、改善できることが沢山あり、ワクワクします。一生勉強ということで、引き続き精進します。