念願のビスポーク「ステンカラーコート」前編

hayashi
店主
林 倫広

これまた一生の相棒となってくれるであろう、ビスポークステンカラーコートが完成しました!前編では、ビスポークならではのディテールをご紹介して参ります。見所が多過ぎて、少々画像が多めですが、お付き合い頂けますと幸いです。

オーダーの経緯

前回ビスポークでお願いしたダブルチェスターコートの出来があまりに良かったので、その熱が冷めやらぬまま、春夏秋と着られるいわゆるスプリングコートをビスポークでお願いしたいと思いました。

スプリングコートと言いますと、弊店のメイドトゥメジャー(MTM)で大好評を頂いているスプリタムコートがあります。もちろん私も、オルメテックスのコットンナイロン 素材で仕立てたスプリタムラグランコートと、同じ素材のスプリタムチェスターコートを愛用しています。と、申し上げると、もうスプリングコートはいらないだろうというお声が聞こえてきそうですが、羽織りものが大好きな私としては、スプリタムコートの良さを知った上で、さっぱりとした仕上がりが持ち味のスプリタムコートとは違う持ち味のコートを、あえてのビスポークで味わってみたいと思ったのでした。

20230314_bespoke_line_balmacaancoat_10.jpgイメージとして頭に浮かんだのは、U.S.NAVYで着用されていた、「オールウェザーコート」。濃いネイビーで、フロントは比翼仕立て。ミシンステッチが効いていて、シンプルながらとにかく格好良いのです。ただ、レプリカを作るつもりは無く、あくまでイメージソースとしつつ、比翼仕立てで、あえて首元を折り返さずにラペルを作らない仕様、肩は落とし気味のセットインスリーブというのが当初のアイデアでした。

職人の小島氏に相談したところ、「MTMでもすごく良いステンカラーコートが仕立てられる中で、あえてのビスポークならではの特徴をどう出していくかが、とても難しい」という誠実なリアクションでした。しかし、その後打ち合わせを重ねる中で、『せっかく仕立てるなら、何十年後かに古着としてどこかの古着屋さんの店頭に並んでいるのを見つけた人が、「何だ、このコート!?」と興奮してくれる様な、良い意味での変体コートを作りましょう!』と引き受けてくれました。

生地

一生もの、かつ軍モノがイメージソースですので、がしがし着られる、そして破れなどの修理跡もサマになる様な生地がイメージでした。そして、仕立てる前段階から生地は洗ってしまおうと考えていました。洗うのは、風合いを出して新品らしからぬ、こなれた感じにしたかったのと、完成後も汚れたら家で気兼ねなく水洗いしたいので、その時の縮みを防ぐための水通しの目的からでした。

そんなコンセプトで選んだ生地は、伊オルメテックス社のコットンギャバジン「GIOVE(ジオべ)」。バーバリー社のトレンチコートに用いられていることでも知られる信頼性の高い生地で、弊店のスプリタムコートでも定番の素材です。上質なコットン100%で高密度に織り上げられた生地は、目が詰まって防風性・撥水性に優れながら、とてもしなやかで軽いです。手触りは、まるで上質なシャツ生地の様にしっとりと滑らかで、ゴワゴワ感は全くありません。軍物のコートがイメージだったので、もっとハードな生地セレクトも念頭にありましたが、仕上がって着用を重ねれば重ねるほど、本当にこの生地にして良かったです。素晴らしいコート生地です。

色は最初からミッドナイトブルーに決めていました。明るいスプリングコートが主流の中で、あえてダークカラーで仕立てたかったのです。ベースとなったオールウェザーコートの画像を見て、黒の様な紺の様な無骨な色に魅せられたというのもあります。その後、街でベージュやカーキなど明るい色のスプリングコートを見かける度に、「明るい色にすればよかったかな?」と不安がよぎりましたが(笑)、今では初志貫徹して良かったと思います。

濃度の違う2色のネイビー糸で織られたシャンブレー生地ですので、いわゆるソラーロの様に光の当たり具合で色が変化します。光沢もあり、ダークながら重苦しく映らない、不思議な生地です。長く着ていく内に日に焼けるなどして経年変化していくのも楽しみです。

ディテール

いよいよ完成したコートの詳細をご紹介して参ります。

20230314_bespoke_line_balmacaancoat_11.jpgフロントはボタンを隠した比翼仕立て(フライフロント)。

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脇ポケットも袖に隠れるくらい脇寄りで、一見すると物足りないくらいシンプル。ですが、このシンプルさこそがこのコートの個性です。

ステンカラーとタブ


20230314_bespoke_line_balmacaancoat_13.jpgこのコートのアイコニックなディテールの一つ。襟には台型のタブが着いています。襟を立てた際にアゴの下で止めるためのもの。

20230314_bespoke_line_balmacaancoat_14.jpgタブは別パーツではなく、ステンカラーと一体になっています。手縫いのボタンホールとステッチが、迫力のある襟周りの景色を作ってくれています。

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台型のタブを襟の下に収納したところ。タブをしまうと、シャープな襟型が良く分かります。ワイドに開いた襟では無く、いわゆるレギュラーカラーの様な、開きの小さいステンカラーを目指し、仮縫い・中本縫いで修正を重ねました。理想のフォルムに仕上がったと思います。

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台型のタブはこの様に収納できます。でも、せっかくのチャームポイントなので、しばらくはタブを出しっぱなしで着ようと思います。

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襟を立てた時に、この様にタブをアゴの下で止めます。実際に閉めて着る機会はなかなか無いですが、飾りでは無く本当に機能するディテールである事が大切です。

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襟周りはミシンステッチ。ハンドステッチ(手縫い)はもちろん大好きですが、そこは適材適所。ここはミシンステッチの見せ場です。

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レールステッチ。ステッチワークに惚れ惚れして、ついつい時間を忘れて眺めてしまいます。

スプリットラグラン

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袖付と言いますか、肩の作りもこのコートのチャームポイント。前から見ると、ジャケットと同じ様なセットインスリーブですが、、、

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後ろから見ると、、、ラグランスリーブ?

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実は、「セットインスリーブ」と「ラグランスリーブ」という2種類の袖付が、肩線を境に切り替わる、「スプリットラグラン」というディテールです。ミリタリーコートに見られる仕様で、すごく仕立てるのが大変そうな仕様ですが、効率重視の軍モノに採用されたディテールだけに、着心地と生産効率の両立を図った仕様と考えられます。

オーダーメイド、さらにビスポークのコートに採用するのはとても稀ではないでしょうか。経験豊富な小島氏も仕立てるのは初めてとのことでしたが、素晴らしいクオリティの仕上がり。強いてセットインスリーブの効果を述べるなら、セットインのエレガンスと、ラグランのリラックスをあわせ持ったビジュアルに仕上がるということでしょうか。何より唯一無二のビジュアルで、周りの方とさりげなく違うものを着たい天邪鬼の私には、刺さりまくりのディテールです。

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バックスタイルも、タブやボタンなど我慢して、あえてシンプルに。背中心のハンドステッチが効いています。このシワシワ具合がたまりません。

袖タブ、腰ポケット、比翼仕立て

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襟タブとリンクして、袖タブも台形に。通常袖タブは長方形または剣型が一般的で、台形のタブはオリジナルのディテールです。

袖口から雨風の侵入を防ぐために、袖口を絞れる様になっています。通常は長いタブまたはベルトが着く事が多いですが、この短いタブがユニークで、とても気に入っています。袖口の傾斜と、タブの下の辺が並行である事も、整然とした印象で気持ち良いです。

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腰ポケット。このタイプのコートだとボタン止めにする事が多いですが、今回はシンプルに。

20230314_bespoke_line_balmacaancoat_36.jpg比翼部分も全てハンドステッチ。

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比翼の内側。ボタンホールは全て手縫い。

二面体と脇ダーツ

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この脇のビジュアルが、何気に非常にユニークでビスポークらしいポイントなのですが、お分かりになりますでしょうか。

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弊店ビスポークラインでお約束となっている二面体を、このバルカラーコートにも採用。細腹(さいばら)と呼ばれる脇のパーツを無くして、前身頃と後ろ身頃の2パーツだけで構成されています。。この二面体が、このコートのミニマルさを完成させています。袖を持ち上げると、脇の下から腰のポケットまで斜めのダーツが隠れています。

ライニング


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ショップネームは、内ポケット付近に付けるのが一般的ですが、あえて軍モノっぽく背中心の裏地にたたきつけてあります。

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オリジナルのオールウェザーコートは、裏側も共地なのですが、共地の代わりにオルメテックスのコットンナイロン 素材を採用しました。共地よりも軽く、また滑りをよくするためのアレンジです。この微妙な色と素材感のコントラストも、とても気に入りました。

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内ポケット周りも、ギミック感あふれる仕上がり。着たら隠れる内側にも一切手抜き無し。小島氏の愛情を感じます。

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ボタンは軍モノのプラスチックボタン(レプリカ)を取り寄せました。軽く付け外しがし易く、さすが極限状態で使われるボタンだと思いました。生地との相性も文句なし。

シンプルなビジュアルの中にユニークなディテールを満載した「ビスポークステンカラーコート」、お楽しみ頂けたでしょうか。後編では私が着たところをご紹介して参ります。

Photo Gallery

2023SSリコメンドファブリックvol.3 DRAPERS後編 「PORTOFINO LINEN」「BLAZON」 念願のビスポーク「ステンカラーコート」後編
Posted by Tomohiro Hayashi
林 倫広

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